「この散らばった薬の箱は?」
「痛み止め」
「そっちのは?」
「痛み止め」
「あれは?」
「痛み止め」
はあ。と、重いため息。
ベッドの横、フローリングの床に転がっている友人を踏ん付けベッドに腰掛けた。ぐえっと蛙みたいな声があがったが無視した。
「用量用法は守れって言ってるだろ」
「すみませんね先生」
「死にたいの?」
「死にたくないさ」
「薬きいたの?」
「きかない。踏まれたとこ痛いし」
はあ。二度目のため息。
「お前は根本から間違ってる。でもって歪んでる」
「かもしれん」
「痛いのは生きてる証拠だ。踏まれて痛いのが嫌なら、そんなとこに転がるな」
「床のが冷たくていい」
「…そーかい。もうお前のことは知らん。もっぺん俺に踏まれて死んでしまえ」
「ひどっ」
勢いよく足を踏み出せば、友人は猫のように俊敏な動きで、俺の踵を顔面で受けることを回避した。
「道端の雑草の気持ちがわかったよ」
「はあ?」
「踏まれると痛いし悲しい」
「そりゃ悪かったな」
「人間は踏ん付けてそのまんまだ。ぺしゃんと潰れた雑草のことなんてすぐ忘れる。まったくもって勝手な生き物だ。雑草は懸命に生きているというのに」
「草に痛覚は無い」
「先生はひどいやつだな」
そう言うと猫のように自由気ままな友人はベッドに寝転んだ。よほど踏まれたくないらしい。
「踏まれると痛いし悲しいんだ」
「ふーん」
「先生」
「なに」
「帰り道、気をつけて」
ひらひらと俯せに寝転んだまま手を振る友人に、すこし眉を寄せる。こちらをちらりとも見ないで手だけを振り続けている。つまりそれは早く帰れということだった。
はあ。三度目のため息を聞いた友人は耳をぴくりと動かしたが、こちらを向くことはなかった。
「薬は用量用法を守れよ」
それだけ言い残し、部屋を後にした。
ぱたんと閉まるドアの隙間から見えた友人はまだ手を振っていた。
title@ニーチェの鼻歌
久しぶりにケータイでぽちぽち文章を打ちました。名前のない登場人物たちのお話でした。